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お酒・飲食店・経営に関するコラム

ワインブームとワインの「誤解」 その2 ~ワインの「薀蓄」~

  • 2009年4月27日 16:14
  • 投稿者: アクシュニュース

ワイン関連コラム☆~ワインの「薀蓄」~

 ワインはブームという現象によって日本に定着してきました。ブームというものは、それ自体いろいろな弊害を招いたりしますが、扇情的で偏った情報のもとに引き起こされることが多いために、様々な「誤解」を生じることもあります。ワインブームもその例に漏れません。

 

 しかしながら、そうした誤解をひとつひとつ解いていくことができれば、より多くの方にもっとワインを楽しんでいただくことができるのではないかと思っています。そこで前回からワインブームとワインの「誤解」についてお話ししています。

 

 前回はどのような成り行きで日本にワインブームが起きたのかをお話ししました。ここからはそうした成り行きからどのような誤解が生じているのか、そして誤解に関する問題点にどのように対処すべきかをお話ししていきたいと思います。まず初めに、今回はワインの「薀蓄(うんちく)」についてお話したいと思います。

 

★ワインは「薀蓄」を語るもの?

 初めにワインが日本で紹介されたのは、口当たりが良くて飲みやすい、軽い味わいの甘口ワインからでした。その後辛口ワインが紹介されていくのですが、辛口ワインは甘口とちがって軽くて飲みやすいタイプのものからではなく、重厚な味わいで憧れを抱くような格付けの高い高級ワイン、あるいは有名人に好まれたなどのストーリー性のあるワインから紹介されました。辛口ワインは飲み慣れないとなかなかすぐには美味しいと感じられにくいために、味わいそのものよりもまず情報として「頭で」わかりやすいものから紹介されたのです。

 

 このことが「誤解」を生んでしまいます。ワインを楽しむためには格付けの理解が必要であるとか、ワインはストーリーもあわせて楽しむものとされるようになってしまったのです。こうしてワインには敷居が高いイメージや「薀蓄」を語れなければいけないような風潮が付いてまわるようになってしまいました。また格付けのないワインやさほどのストーリーのないワインは、どんなにおいしく造られていても見向きもされなかったりもしたのです。

 

★ワインは専門家が扱うべき「特別」なもの?

 こうした風潮はさらにエスカレートし、格付けやストーリーをきちんと説明できるソムリエのような専門家がワインを扱うべきだと思われるようになってしまい、そのくらいワインは「特別」なお酒であるというある種の偏見にまでなってしまったのです。

 

 1990年代後半の本格的なワインブーム以前にもそのような風潮がなかったわけではありませんが、田崎真也さんが1995年にソムリエ世界一になったことでさらに強まってしまったように思います。ワインブームもいよいよというところで彼が世界一のソムリエになったことで、「ワイン=ソムリエ(のもの)=特別なもの」というような短絡的なイメージが定着してしまったのです。

 

 田崎さんご自身は、ワインを「特別」なものとしてばかり紹介することはなく、むしろもっと普段の食生活に気軽にワインを取り入れることを提唱されてきました。高級なワインとレストランの食事といった組み合わせばかりでなく、例えばさほど高級ではない国産ワインの「甲州(産地銘柄と同時にブドウ品種の名前でもあります)」と家庭でのごく普通の食事との組み合わせを紹介されるなど、ワインを日本の食卓の「当たり前」な存在とするべく活動や提言をなさってきたのです。

 

 今でこそ国際的にも高く評価されるようになってきた「甲州」ワインですが、当時は山梨県勝沼のお土産品くらいにしか思われておらず、田崎さんのおかげで陽の目を浴びたと言っても過言ではありません。

 

 しかしながら、イメージというのは一人歩きするもので、残念ながら田崎さんご自身の意志とは関係なく、いやむしろ逆に、ワインは「特別」なものというイメージが強まってしまったのです。

 

★「格付け」が高ければ美味しいのか?

 ワインにはなぜか「入門書」が多く、ワインの美味しさを「理解」するにはまず入門書にひと通り目を通してから、というような風潮もあります。他のお酒にも入門書がないわけではありませんが、ワインの入門書の多さはとりわけ目を引きます。そうした入門書の中で必ず説明されているのが「格付け」です。

 

 フランスのブルゴーニュなど一部のワイン群には格付けがなされています。長い歴史の中で特に美味しいワインとして認められてきた銘柄に公的なお墨付きが与えられたものが格付けです。しかし、はたして格付けされたワインは誰にとってもいつ飲んでも美味しいものなのでしょうか。あるいはそうした格付けを「理解」しなければ、ワインの美味しさを楽しむことができないのでしょうか。

 

 私たちはえてして格付けなどと言われてしまうと「美味しいと感じなくてはいけない」かのように思ってしまいがちです。口に合わなくても、自分では美味しいと思わなくても、わかった振りをして美味しいと言わなければいけないかのような、ある種の強迫観念すら抱かされてしまうのです。

 

 まして日本人にとって外来文化であるワインなどは、はじめのうちは自分で評価するのがなかなか難しいもので、他人が美味しいと言うから自分も美味しいと思わされる、ということになってしまうわけです。そして、そうしたことをとりあえず頭で「理解」しようとするために「入門書」に頼ってしまうことになるのです。

 

 しかしそんなワインといえども、ビールやウイスキー、焼酎などと同じお酒であり、嗜好品です。つまり格付け以前に、まず個人が楽しめてはじめて価値があると評価されるべきものなのではありませんか。そんな、気づいてみれば当たり前のことに改めて気づきさえすれば、もっと気軽にワインと付き合えると思うのですがいかがでしょうか。

 

★もっと気軽にワインと付き合えないか

 もちろんワインの格付けやストーリーは憧れや幸福感を抱かせてくれます。ステイタスシンボルになったり、過去の有名人と自分をつないでくれるような気分にさせてくれたりするのです。ただ美味しいという以上の楽しみや価値観の存在は、ワイン文化の真髄ともいえるでしょう。それを否定するつもりなど微塵もありません。

 

 またワインには、こうした格付けとか背景のストーリーが他のお酒に比べて多いうえに非常に高価な銘柄も数多く存在し、他のお酒に比べて「特別」な存在であることを強く意識させられる場合が多いことも否定できません。

 

 しかし、まず「入門書」を読み、格付けを頭で「理解」してからでないとその美味しさを楽しめないのでしょうか。そもそも「味わう」ために、本を読んで「理解」することが本当に必要なのでしょうか。格付けが高かろうが低かろうが、まずは味わって楽しめるかどうかが大事なのではありませんか。

 

 他のお酒に比べて「特別」であることを意識させられることを否定できないとしても、そのために気軽に味わうという楽しみ方がないがしろにされるのは、偏っていると言えないでしょうか。まずは気軽に味わえればそれでよいというワインの楽しみ方があっても良いと思うのですが、いかがでしょうか。

 

     例えばソムリエが「とにかく気軽に楽しんでください」と訴える

 過去に日本酒や焼酎にもブームというのはありました。しかしワインブームとは様子がちがっていました。ワインほど細かいことを言わずに「美味しい」「口に合わない」などと一人ひとりがそれぞれに楽しんでいたよう思うのです。もちろん蔵元や銘柄についてこだわったりしましたが、こだわると言ってもその程度、結局は自分が美味しいと思うかどうかで楽しんでいたように思うのです。ワインもそれでよいのではないでしょうか。

 

 「わからなければ店員に聞いてください」というお店は多いですが「わからなくても大丈夫、難しいことは抜きにしてまずはいろいろと試してみてください」というお店が意外と少ない気がします。それが「薀蓄」を語るほどのワインであろうとなかろうとあえて語ることなくおすすめし、お客様が楽しまれるというシチュエーションが少ないように思うのです。もちろん産地や葡萄品種など、最低限の情報くらいはお知らせできなければいけませんが、それ以上のことは「飲んでご自身で楽しんでください」というスタンスがあってもいいと思うのです。

 

 これはこれでお店にとってオリジナリティになるはずです。もしお客様にとって美味しければ、「○○のワイン」という薀蓄話ではなく「○○さんがおすすめしてくれた美味しいワイン」ということになるからです。メニューに薀蓄たっぷりの有名なワインばかり揃えると、他のお店でも扱われている可能性が高いですから他のお店との差別化は図りにくいです。しかも有名でなおかつ美味しければ値段も高くなりがちですから、お客様のリピートに貢献しないこともあるでしょう。

 

 さらに言えば「気軽に楽しめる価格帯」のワインをいくつも揃えているお店も少ないように思います。よほどの高級品でない限り同じくらいの価格帯で国を変えるだけでもいくつもの銘柄を揃えることができる状況になっていますから、たとえばハウスワインと同じ価格で、いくつかの銘柄をバイザグラスで揃えてしまうのも面白いでしょう。お客様の口に合う合わないも、これでかなり解消されてしまいます。

 

 居酒屋さんのようなところであっても、ビールなどと同じような気軽さでワインを楽しむ方がもっと増えてもいいのではと心底思う今日この頃です。「とりあえずビール」みたいな気分で「とりあえずスパークリングワイン」とか「とりあえず白ワイン」というセリフをもっと聞きたいものです。そのような場では楽しく飲めればよいのであって、「薀蓄」を語る必要などないのです。私自身ソムリエを業としておりましたが、「もっと気軽に楽しみましょう」とこれからも訴え続

けていきたいと思っています。

 

 さてワインブームで生じた「誤解」シリーズですが、次回は「赤ワインは体に良い?」という話題を取り上げようと思います。

 

筆者プロフィール

ペンネーム:You

フランス料理店にて修業の後、昨年まで都内大規模エンターテインメント施設でチーフ・ソムリエをつとめていました。田崎真也さんが世界ソムリエコンクールで優勝した年には既にソムリエ受験していましたので、田崎さんの優勝を機にソムリエを目指したというわけではありません(笑)。でも田崎さんの書かれた本やコラムには本当にお世話になり、合格後は実践の場でさらに重宝したものでした。

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