外食業にも役立つ【よその産業】の知恵 第16回 仕入原価を安くする合理的な方法 ―― ダイエー、ヨーカドー、イオンを育てた師匠の教えに学ぶ(その2)
- 2010年4月20日 11:22
執筆 経営評論家 藤原大輝
前回は、中内功(ダイエー)、岡田卓也(ジャスコ、イオン)、伊藤雅俊(イトーヨーカドー)、藤田田(日本マクドナルド)、堤清二(西友)、高原慶一郎(ユニチャーム)といった日本の流通シーンを代表する創業経営者たちの共通の師匠である渥美俊一の指導内容から2つのポイントを挙げた。
①チェーン店では、1店舗での販売額はあらかじめ決めておいた上限値よりも上回ってはならない。②PB商品を合理的に安く開発するには、原料段階から小売店が所有権を持たねばならない。
以上の2点を踏まえ、今回は次の2つのポイントを見ていこう。③PB開発が可能かどうかは、店舗数などの企業規模とは無関係である。④消費者のなかには、価格一辺倒ではなく、価格よりも品質を求める層がある、という見方は決定的に間違っている。
日本経済はデフレが長期化しており、大手のスーパーなどを中心にPB(プライベートブランド)商品の開発が盛んに行われている。
しかし、単に自社のブランドでNB(ナショナルブランド)と似た商品を作ってくれとメーカーに依頼するだけでは、安い価格にはならない。前回でも触れたとおり、渥美のチェーンストア理論では、材料段階からメーカーではなく小売業者が所有権を持ち、製品加工のすべての工程を「委託加工」に転換することが指導されている。
ところが、これに納得しない受講者が必ず出てくる。
"「自社商品開発は1000億円の売上規模がないとできない」「1兆円企業にならないと商品開発は難しい」と思っている経営者が少なくありません。たしかに、商品開発は10店ではやりにくいし、100店ならやりやすく、1000店ならもっとやりやすくなります。しかし、1店でもできないことはありません。反対に、1000億円売っても小売価格は安くなりませんし、1兆円売っても安くはならないのです。"(渥美俊一:流通革命の真実、ダイヤモンド社、260ページ)
要するに、「PB開発は大規模だから可能で、小規模だと不可能」なのではなく、原材料の調達や製品加工を経て小売業に届くまでの一連の流れにおいて、「どの段階から小売業者がプロデュースするか」「マーチャンダイジングの決定権をどの段階から持つか」という問題なのだ。
そうはいっても、原材料段階から所有権を持つとなると、小売業のサイドで原材料に関する深い知識が必要だ。繊維製品なら、生糸を買いつけて、「これでシャツを作れ」とメーカーに指示することになる。当然、生糸の知識が必要であり、すなわちその前段階の綿花の知識も持っていなければならないことになる。日本の小売業者でこの段階まで良く知っているのはイオンだけだと渥美は書いている。(そのあとに、ユニクロがまさに渥美の言うとおりに原料の設計の段階から自社で始めたために、流通業者のPBに壊滅的打撃を与えているのは周知のとおり)
さて、ここまで読むと、外食業によるPB開発は難しいと思う向きも多いかもしれない。なにしろ、そこまで原料段階の知識を持ち合わせている人材が社内にいないから・・・
ちょっと待って欲しい。
外食業における製品とは?原材料とは? フードであれば、料理のプロが揃っているのだから、まさに原材料まで知り尽くしているはずだ。したがって、外食業ほどPB開発に適した業種もないといって過言ではない。
渥美は、単なる「仕様書発注」方式のPBを戒めている。そうではなく、原材料をメーカーに供給するところが肝要だと説く。このように考えることで、いま自店で使っているあらゆる加工食材が自社PB化の俎上に乗ることがわかるし、毎日手作業で造っているハンバーグやソース類、スープ類などもすべてPBになる可能性がひろがってゆく。
フードばかりではない。ドリンク類の原価削減のためには、外食業はもっとドリンク類のPB化を真剣に検討すべきである。
その理由は前回と今回紹介した渥美理論がすべて語るとおりなのだが、「まだ数軒しかやっていないウチの会社では無理だ」という思い込みが、折角の可能性にフタをしてしまっているようだ。
店舗売上の3分の1から半分近くを占めるドリンク類について、単に仕入価格の値下げ交渉をするだけでは競合他店との本質的な違いは出しようがない。いまや外食業は規模の大小を問わず、「飲料調達の構造改革」をゼロベースから行うことを検討する時期に来ている。
渥美の教えの最後は、「価格問題」である。
渥美が名だたる創業経営者たちに指導している中で、どうしても彼らが譲らなかったのは、「いいものは高い」ということだった。
渥美によれば、これは絶対に間違いであるという。「いいものを高い値段で売る」のはダメで、「いいものを安く売る」ことこそ、小売業の使命だと言い続けて来た。
ところが、最近においても、「当社は価格よりも品質で勝負する」というようなメッセージが小売業者から発信されることがある。これを渥美は「腹立たしい主張が横行している」と断罪している。
とくに、NBの強すぎる業種ではPBの安売りは難しいと思われがちだ。しかし現実には、渥美の指導によって背広、カメラ、眼鏡などの少数のメーカーが寡占していた業種で、自社PBだけを販売するチェーン小売業が次々に成功を収めていったのだ。
なかでも、背広の専門店は粗利率が最初に40%を超え、量も売るけれども利益も凄く稼いでいった。
まず青山商事が軌道に乗せ、次いでアオキインターナショナルとコナカが追いかけた。
その初期には、「縫製メーカーから仕入れているからダメなんだ、生地までさかのぼって仕入れろ」と渥美が青山五郎と青木擴憲の2人の創業経営者にハッパをかけた。この2人が「生地を仕入れても、どうやってつくればいいのかわからない」と嘆いたので、一緒に産地の岐阜に住みこんで大手アパレルが発注している工場を探し当てた逸話が紹介されている。(前掲書、279ページ)
シャガールのコレクションでは世界有数といわれ、表参道に美術館を持つまでに高収益をほしいままにしたアオキ(現・AOKI)にも、初期にはこのような苦労話があったのだ。
これは単なる過去のエピソードではなく、「不可能と決めつけないで、可能にするための行動を起こす」かどうかが後の成否を分けることを銘記しておきたい。
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