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外食業にも役立つ【よその産業】の知恵 第14回 若者に人気の旅行先は、なんと熱海――消費スタイルの真相はこれだ!

  • 2010年3月10日 10:07
  • アクシュニュース
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14回 若者に人気の旅行先は、なんと熱海――消費スタイルの真相はこれだ!

 

執筆 経営評論家 藤原大輝

 

 

現代の若者は「ケータイやゲームに金を使うからモノを買わない」と思っている人。「旅行には行かない」と聞かされている人。こういう人づてに聞きかじって、わかった風になっている人が、商品開発や販促企画などをしているとしたら、恐ろしいことだ。無理もない。新聞や雑誌記事のみならず、マーケティングの専門家と自称している人たちが書いていることからして、表面的な伝聞に終始しているからだ。そんな中で唯一の例外といえる本が登場した。物事の本質への切り込み方がえらく鋭い。若者の消費スタイルに関しては、これを読んでいないと恥ずかしいくらいの必読書といえる。

 

 

 

『情報病 ―― なぜ若者は欲望を喪失したのか?』(三浦展、原田曜平 著、角川oneテーマ21新書、705円)がそれだ。

共著者の三浦展は、言わずと知れたベストセラー『下流社会』の著者であり、現代の消費シーンを語らせたら右に出る者はいないというマーケティングの奇才。だが、彼も既に50歳を超え、20歳代の若者の消費スタイルを分析するには単独では不安だったのか、博報堂で若者研究の第一人者といわれる原田を担ぎ出した。

その原田が現役の大学生を男女各1名呼んで来た。これが成功している。2人の研究者が、学生に対して執拗に根掘り葉掘り聞き出している。並のインタビューで終っていないのは、聞き手に問題意識が鋭敏だからだろう。

 

マーケィングの調査は、広範なデータ収集と、深掘りのインタビューとに大別される。前者は、アンケート調査が典型だ。アンケート調査は、多数の消費者の意識や行動をデータ化して統計的に分析するので、"非常に客観的"で"事実を忠実に表現している"という錯覚に陥りやすい。

しかしアンケートの決定的な弱点は、表面的な事実の背後に潜む「真相」を探るには不向きであるか、できたとしても非常に熟達した研究者によって入念に調査票を設計せねばならないことだ。調査票の設計時点で立てた仮説以上の結果が得られることは極めて稀で、調査票の設計者がなまくらだと、どんなにサンプル数を集めようが、どれほど膨大なデータを多変量解析にかけようが、結果は凡庸なものでしかない。

他方、深掘りのインタビューにおいては、熟達した研究者が適切なインタビューイーを選ぶことに成功すれば、当初は漠然としていた仮説が対話の中でどんどん研ぎ澄まされていき、まったく新たな知見を見つけ出すことも往々にして可能となる。

民俗伝承の調査や社会人類学などの分野では、もっとも有効な手法の1つとしてごく標準的に採用されている。にもかかわらず、「少ない人数にインタビューしただけで結論を決め付けるのはおかしい」という一見もっともらしい指摘が後を絶たない。(たとえば、アマゾンにおける素人書評でも、本書に対して「サンプルが少な過ぎる」などと社会調査の方法論に無知なことを丸出しにするコメントが出ている)

サンプルが少ないのは深く掘り下げるためだ。そもそもサンプル数を稼ぐ調査ではない。本書を読み進めて行くと、適切に選ばれたインタビューイーと感覚の鋭敏な研究者による深掘りインタビューの成功例の見本ともいうべき論考の深化が見て取れる。

 

本書の内容は読んでのお楽しみで、随所に示唆に富む会話が盛り込まれている。特に、35歳以上の読者には、自らの20歳代の頃とはまったく別世界のようなことが普通にいまの日本で展開されていることを知って驚くに違いない。

たとえば、若者が自動車を買わなくなったと言われているが、その真相は、「横並び消費」だったのだ。つまり、友人達との比較で、他との違いを極端に恐れる気持ちの持ち方が一般的になっているから、自分だけ車を持つことを嫌う。現代版の村八分が圧迫要素になっている。

それでも車を欲しがる若者はいないのか? この問いに対して、インタビューイーの大学生の答は驚愕すべきものだった。

「親がすごいクルマ好きで、その影響を子どもが受けて的な子だけ」(原文のまま)だそうだ。要するに、歌舞伎役者になりたい子供は、ほとんど歌舞伎役者の息子だけというのと同じだというのだ。車を欲しがるのは、古典芸能なみの超ニッチに転落したというから、我々には理解不能な世界だ。

さらに、村八分になるのも恐れると同時に、友人を村八分のように扱うことも極端に避ける。ここから、海外旅行に1人で行くこともなくなるし、友人と行くことを企画すること自体がなくなる。海外旅行に行く費用を出せない友人がいたら大変だからだ。

こういう状況なので、いま最も人気の高い旅行先は、なんと熱海になるのだそうだ。誰でも行けるから、友人との仲間意識を壊さないで済む。事実、熱海の駅前は場違いな20歳くらいの若者(男女とも)で溢れかえっている。筆者もちょっと前に熱海駅でその光景を目にして、いったい何のイベントがあったのだろうといぶかった経験があるが、真相はここにあったのだ。

 

本書を読まずに「いまの若者」を語ると、かなり恥ずかしい。特に中年以上の方は。
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