外食業にも役立つ【よその産業】の知恵 第12回 「野村のぼやき」に学ぶ指導者のあり方
- 2010年2月10日 09:58
第12回 「野村のぼやき」に学ぶ指導者のあり方
執筆 経営評論家 藤原大輝
話がうまい人というのは、たいてい「たとえ話」を上手に使う。聞かされている話がよくわからず、「あれ?」と思うことがあっても、とっさに身近なたとえ話を挿んだりするから、ことの本質とは別のところで聞き手が納得してしまう。
この逆がある。プロ野球の監督を永く経験して昨シーズン限りでユニフォームを脱いだ野村克也の話だ。「野村のぼやき」としてスポーツ記者の格好のネタ元だったが、野球に留まらずに広く人生論、組織論に話が展開していく。だから、話に奥行きあって味がある(ように聞こえる)。野球の話ばかりしているかと思うと、急に人間教育の世界に飛んだりする。商売においても使えそうな話がころがっている。
野球の話は概して年配オヤジの専売特許になりつつある。日常会話で野球のたとえ話を繰り出すとなるとなおさらだ。
政治家もたとえ話を多用する職業だが、日頃のクセが海外でも出てしまう。
外国首脳との懇談の席で、「日本経済も満塁のピンチを脱しました」などとやってしまう。野球は北中米と極東のごく一部でしか行われていない世界的にはマイナースポーツだから、欧州人が相手だと、全くちんぷんかんぷんだ。だから、気の利いた通訳なら、とっさの機転でサッカーの話にすり替えたなどといわれることもある。
海外の話だと高をくくってはいけない。
小学生対象の塾で、国語の時間に少年野球を扱った小説を採り上げたところ、「先生! キャッチャーって何ですか?」という質問が出たと塾の教師が紹介していた。いまや、若者の間では野球は相撲と同様、マイナースポーツだという認識が必要だ。(そもそも、スポーツを観るという行為自体がマイナー化しているのだが)
それでも野球は、試合の真最中に監督が細かい采配を振るうことができる数少ないスポーツだ。そこが、自分の会社や部下とのアナロジーでオヤジの酒の肴になりやすい。
いま書店に行くと、「野村克也コーナー」ができるほど多くの「野村本」が刊行されている。
そのなかでも最も初期のものが『野村ノート』(小学館、2005年、1575円)だ。初版から5年目になり文庫(小学館文庫、580円)にもなっているが、いま読み返しても新鮮さを感じさせる。
それは、野村がぼやいた言葉の数々を、出版社のほうで、会社組織にありがちな事例に巧妙にこじつけて編集してあるからだろう。野球とは一見何の関係もないような目次立てからして、実にわざとらしいけれども、つい読んでしまうのが、野球と組織の両方から離れられない中年オヤジの弱いところ。
以下のように目次立ては、まったくもって野球の本とは言い難い。
第1章 意識改革で組織は変わる
第2章 管理、指導は経験がベース
第3章 指揮官の最初の仕事は戦力分析
第4章 才能は学から生まれる
第5章 中心なき組織は機能しない
第6章 組織はリーダーの力以上には伸びない
第7章 指揮官の重要な仕事は人づくり
第8章 人間学のない者に指導者の資格なし
いかにも「ビジネス処世術」「リーダーになるノウハウ本」という感じの美辞麗句が並んでいるから、つい手にとってしまう。読むと、誰でも知っている有名選手の実話や秘話が実名丸出しでどんどん出てくるから、面白くてつい買ってしまう。こういう寸法だ。
だが、上記の目次に引き寄せられて読み進めても、「組織の変革を起こすための意識改革は、いったいどのようにしたら良いのか?」とか、「組織が機能するために中心を造るにはどうしたら良いのか?」「人づくりの要諦は?」と読者が思いつくような質問には、ほとんど答えは用意されていない。野球実話の「たとえ話」から、漠然とした輪郭らしきものを感じ取るしかないのだ。
「仕事の三大要素は「計画」「実行」「確認」というが、そのなかでも計画は特に重要である」と野村はいう。別に野村に言われなくても知ってるよという内容ではあるが、人材の育成も計画的にやれと。見所がありそうな社員には、30歳を過ぎたあたりからしっかりした将来の幹部としての教育を施していきなさいよということらしい。
野村自身が34歳で往時の南海ホークスの選手兼監督になったときに、その当時は準備が出来ていなくて結果は残せなかったが、あとになってその経験が大いに活きたと語る。
曰く、"不満のない者はいないが、それをぐっとこらえる抑制術こそ人間教育の根幹だ。人間には2つの限界がある。自分1人では生きていけない、自分の思うようになることは殆どない、という2つだ。自分の思うようにならない、理想と現実が離れる。だから努力が必要だ。自分の理想の実現のために努力するのだ。"
野村は、これを30歳代で得心して、若手選手に繰り返し繰り返し叩き込んだそうだ。
70歳を過ぎて述懐しているので、多少の後講釈は含まれているだろうけれど、ここまで嫌われながらも徹底できるかどうかに、リーダーの使命感と孤独感がある。
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