外食業にも役立つ【よその産業】の知恵 第9回 特定日に集中するお客をどう分散させるか? ―― ディズニーランドに学ぶ"de・マーケティング"
- 2009年12月25日 10:59
執筆 経営評論家・藤原大輝
■第9回 特定日に集中するお客をどう分散させるか? ―― ディズニーランドに学ぶ"de・マーケティング"
今年の12月はひどい。いままで不況は何度もあったが、ここまで外食産業からお客が消えた12月も珍しい。外食経営者に面談すると、異口同音にこうぼやく。「12月なのに良いときと悪いときの差がハッキリしている」「特定の日にお客が集中して、その日は断るのが大変なのに、別の日には閑古鳥が鳴いてしまう」。週末だけ活況を呈して、あとはガラガラというのが共通した景況感のようだ。では、この特定日に集中するお客を、うまく分散するにはどんな方策があるだろうか? 答はディズニーランドにあった。
筆者が20年以上前に海外ビジネススクールで学んだときのマーケィングの一番最初の授業は、「De-marketing : どうやって売らないか?」であった。
「どうやって売るか?」ではない。「どうやったら、売らないことが出来るか?」を考える授業だったのだ。それを、1年間の講義の一番最初に持ってきたところに、教授の意図がある。
要は、売ろうとばかり思うと、却って売れない。売るためには、「売らない努力」も必要だということだ。
そういわれれば、なんとなくわかったような積りにはなる。けれども、「売らないことが売ることにつながる」という理屈は、簡単には腑に落ちない。結局、この理屈が実際の商売においてどのような意味を持つのかがわかったのは、少し後になってからだった。
東京ディズニーランド(ディズニーシーを含めて東京ディズニーリゾートというのが正式名称らしい)の売り物の1つにパレードがある。
Q:ディズニーランドのパレードは何時に行われるか?
A:「一番の売り物だから、最もお客が集まりやすい時刻にやる」
判定:×
この回答は、従来型の"売らんかな"型のマーケティングの考え方だ。多くのお客に見てもらいたい、多くのお客に喜んでもらいたいという発想は、近視眼的である。
最大の人気を誇るパレードを、できるだけ多数のお客に便利な時間帯に設定したとしよう。思惑どおり、多数のお客が喜ぶだろうか?
何が起こるかというと、まず場所取り合戦が熾烈を極めるだろう。いまでも、「ディズニーランド裏技集」といった非公認サイトがインターネット上に多数開設されている。そこで事細かに解説されている場所取りの極意によれば、開始時刻の1時間半くらい前に様子を見て、1時間前になったらシートを敷くなどと書いてある。現状よりも見物客が増加したら、当然、場所取りに動き始める時間も早まるだろう。
運よく場所を確保できる人は限られている。その他大勢は後ろのほうから見ようと思っても、山のような人垣に押しのけられて、結局ほかのお客の頭だけを見物する羽目になる。彼女の機嫌は損ねるし、小さい子供は泣き出すだろう。
夏ならば炎天下、冬なら極寒の中で立ちっ放しで疲れたうえに、目的のパレードが良く見えなかったとなれば、お客の満足度は極端に低下することは当然だ。
気を取り直して何か食べようとレストランに行っても、パレードがはねたばかりで入口には長蛇の列。泣きっ面に蜂とはこのことだ。
そこで、本物のディズニーランドでは、1日を通して何らかのパレードは行われているが、メインのパレードは食事時に行われる。昼は11時半、夜は18時から19時開始というパターンが多い(季節や日によって変動する)。
これには二重の意味がある。
パレード見物客の満足度を最大化するとともに、レストランの混雑を緩和することだ。
このように食事時に最大の見世物を設定することによって、「見物か、食事か」という究極の選択をお客に迫るわけだ。(二者択一。両方採ることを許さない) これによって双方の混雑が緩和して、顧客の満足度の総和が向上する。
お腹が減る時間帯に開催することで、パレードの見物人数を減らす。最大の見世物を食事時にぶつけることで、レストランの来店客数を減らす。この2つの「売らない作戦」の効果は絶大だ。
放っておけば閑散となる時間帯にレストランが満席となるから、客席の回転数が1日を通じて高止まりする。
筆者が以前コンサルティングを担当した飲食店で、この手法を応用したところ、効果はてきめんだった。
その店は都心のビジネス街の裏通りにあり、店前通行量は少ない立地だった。ビジネス街の勤め人は、会社の近所で飲みたがらないので、夜の営業も期待できない。ランチで固定費をまかなうことが至上課題だった。
25坪40席の単独店でランチ日商10万円の目標を掲げた。
平均700円として約140食売る必要がある。実に3.5回転。牛丼チェーンでもない個人経営の店としては普通に考えれば荒唐無稽な目標だった。
しかし、何事も合理性から出発するとうまくいくものだ。
この店の場合、すべては「ランチ日商10万円」からスタートした。業態の選択すら、そのための手段とした。日商目標が「主」で、何をやるかは「従」とした。ビジネスである以上あたり前のことだが、店主のセンチメントに流されやすい飲食業で、この冷徹さを貫くのは珍しいことだった。
物件の制約で40席が精一杯だったので、この目標達成には客単価と回転数の双方において高い水準が必要だった。そこで、自動フライヤーによる天ぷら、天丼を高級な食器で演出して比較的高めの客単価を実現した。
問題は回転数だ。
ビジネス街の昼食は12時から13時に集中する。これを分散させるために、その前後の時間帯で使える割引券を配布したり、コーヒーなどのサービスをすることはよく行われている。しかし、割引券は、仮に10%では人間の行動を変えるインパクトはないし、それ以上の割引率では店の収益を圧迫する。これが一律割引の恐ろしさだ。
他方、コーヒーのサービスは、お客の滞留時間を延ばすので回転数には大敵だ。
この店で採ったのは、大幅な無料サービスだった。
讃岐うどん1杯の通常売価は370円だったが、11時45分以前と、13時以降に入店した客には一律無料で出した。370円分のうどん1杯が無料というのは大きい。
これで11時台に32人、12時台が85人、13時台に28人となり、1日145食(いずれも初年度1年間の平日平均)を売り、1日ランチ3.6回転、昼間日商10万円を達成した。
ここでのミソは、冒頭に書いたde・マーケティングである。deとは、デフレのdeで、「減らす」という意味だ。
要するに12時台にいかに売らないか?―― そのために12時台に来店したくなくなる「マイナスの動機」をお客に与えるために、前後の時間帯のインセンティブを370円と大きくした。
これにより、11時40分ごろ来店し「まだ大丈夫だよね!」と喜ぶ客や、店の前で時間をつぶして13時になるのを待ってから入店する客が恒常化し、狙いは的中した。
売価370円といっても、うどん1杯の原価は麺・具・つゆを入れても80円程度であり、マーケティングコスト(正確には、de・マーケティングコスト)としては妥当な範囲だ。
さて、これを週末集中型から週初めや週中へお客を分散させるためにどう応用するか?
鍵は、お客にとっての差の認識を、プラスではなくマイナスから発想することだ。つまり、「週初めや週中に売上を伸ばす」ではなく、「週末に売らない」de・マーケティングを志向することだ。
そのためには、集中日に来店した客に、「月曜~木曜に使える割引券」を配ることになるが、その割引額は、平均的な客単価を目安にしよう。それ以下では(たとえば、生ビール1杯無料など)お客の行動は変らないことを肝に銘じなければならない。
客単価が3500円の店ならば、3500円の売価の商品を無料にする。ワインでも焼酎でも構わないから、1本を無料で出す。メニューにキチンと3500円として普段から掲載されている商品であることが肝心だ。そうでないと、景品(オマケ)のイメージになってお客に店の狙いを見透かされて逆効果だ。
売価3500円の酒類であっても、仕入原価は800~900円程度であり、テーブルに空気を坐らせていることに比べたら安い出費である。
いまは、飲食店の選定は女性がリードするケースが多いので、女性の好むスイーツなどを客単価相当分くらい無料にする手もあるだろう。(その場合には、上述の理由から定番メニューに入れることが必要だ)
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