外食業にも役立つ【よその産業】の知恵 第8回 柳井正に学ぶ経営の本質
- 2009年12月10日 10:38
執筆 経営評論家・藤原大輝
■第8回 柳井正に学ぶ経営の本質
「またユニクロか」「もういい加減にしれくれよ」という声が聞こえてきそうだ。しかし、日経新聞をはじめとしてマスコミが報じているのは表面的なことばかりで、ユニクロがどうして一人勝ちになれたのかを掘り下げた記事は、実は殆どないと言ってよい。一回の発注数量がデパート系のアパレル大手と桁違いに大きいとか、中国の工場の品質管理を徹底しているとか、だから安くてよいものを消費者に提供できる一貫した体制が他社の追随を許さないとか。この程度ならば、中学生が社会科の宿題で調べ物をしたレポートにもありそうだ。こんな内容ばかりだから「またユニクロか」という反応になる。ところが、社長の柳井正の経営哲学には極めて奥深いものがある。アパレルの枠に留まらず、あらゆる産業の経営者の琴線に触れるはずだ。
ユニクロのどこが、どう他社と違うのか?
長い話を一言に要すれば、柳井正と、他のアパレル大手の経営者の経営力の差ということになる。
オーナー経営者か、サラリーマン社長かという議論ではない。実際には、ユニクロを凌駕する成長と利益率を誇るアパレルも存在するし、オーナー社長でも低迷している企業は山ほどある。(一例として、600超の店舗を運営する「ポイント」は利益率でユニクロを上回る東証1部上場企業だが、社長の石井稔晃は叩き上げのサラリーマンだ)
では、柳井正の経営力とは何かを知るには、自著を読むのが早い。
柳井正『一勝九敗』(新潮文庫)は、ユニクロ1号店オープンから20年経った2003年に書かれ、その後文庫化したもので、柳井の経営に対する考え方が随所に散りばめられている。題名からわかるとおり、山口県の片田舎から苦節数十年に亙る挫折と失敗の経過も含めて書かれており、巷間ありがちな「成功者の自慢話」(猫またぎ)ではないから、鼻につく部分はない。
ここでは、その中からいくつか他産業でも参考になる部分を紹介する。
■スーパーバイザーよりも店長を上位に置く
アパレルも外食も多数の店長と、彼らを指導するスーパーバイザー、店舗を統括するエリマネージャーなどが置かれている。店長は、お客に接する最前線でありながら、会社内での地位は高くなく、店長はいつしかスーパーバイザーや統括本部に「昇格」するための中間地点でしかないという会社が多い。
ユニクロでは、店長が最終目標となっている。年収も3千万円を超える人もいる。無論、全員がこうなれるわけではなく、実績に応じて5百万円に留まる店長もいるが、25歳で年収1千万円というのが平均的な店長像ということだから、やはり現場重視がお題目だけではないのだ。
ただし、ここまで持ってくるのも維持するのも簡単ではない。柳井は「当社の店長は知識労働者。いつまでも肉体労働ばかりして頭を使わないと3百万円どまり」という。
そのためには、知識人を育成することが研修の最大の眼目となっている。「給料の高いハイテク産業と同じレベルの知的人材を養成する」という原点がある。「小売業だから仕事はきつくて給料も安い」という業界の常識を覆そうという経営者の信念といえる。
■ "利益が上がらないということは、単純に失敗しているということなのだ。"
これまでの日本の大企業は、高度成長期に大成功を収め、社内にいろいろな蓄積がある。しかし、それが却って重荷になって大きく苦しんでいる。利益も出ない。
この状態を柳井は、「今現在失敗していることの本質を本気で認識しようとしていない」と見る。「情報や環境を分析し整理することに長けている経営者はよくいる。しかしこういう人ほど失敗を恐れ実行しない」と手厳しい。
何よりも、今は経済環境がアゲンストだ、などという認識をしている経営者が危ない。そこで見出しにあるようなコメントになるのだ。利益が上がらない? その理由は、簡単ですよ。お宅がやっていることが単に失敗しているということです、と。
こうした厳しい言辞も、他社の経営者に向けて言っているうちは、聞きたくなければ無視すればよいから、実害はない。
柳井は社長である。こんなことを毎日社員に向けて口を酸っぱくしているのだろう。社員はこれに実績で応えなければならない。
一時期、柳井が会長に退き、活きの良い若手幹部を社長に抜擢したことがあった。業績は見事に低落し、結局は柳井が復帰せざるを得なかった。
経営者の一貫した理念。それを社員に広く徹底する実行力。この両輪をゆるぎないものに固めているところに強さがある。
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