ワインブームとワインの「誤解」:その7 ~日本のワイナリー見学ブーム~
- 2009年10月26日 09:10
☆~日本のワイナリー見学ブーム~
いま、日本ではワイナリー見学がちょっとしたブームになっています。山梨のいくつかのワイナリーに聞きましたが、飲食業界や酒販業界に携わっているのではない一般のお客様のワイナリー訪問がここ1、2年でかなり増えているそうです。実際、昨年山梨のワイナリーを訪問したとき、月曜日であるにもかかわらずお年寄りでもない一般のお客様がかなりいらっしゃったのが印象的でした。
さらにここ1、2年、日本のワイナリーやワイナリー訪問を紹介する本や雑誌特集などがいくつも出されていますし、カリフォルニアのワイナリー巡りを舞台にした2004年の映画「サイドウェイ」も日本版としてリメイク(舞台はカリフォルニアのまま、登場人物を日本人に変更)され、この週末に公開されます。
こうした見学ブームはどうやらワイナリーやワイン業界だけのお話ではないようで、このところ小中学生などの社会科見学ではない一般の方々の工場見学がいろいろな業界で増えているのだそうです。工場見学は企業側でもPRになるため無料か有料でもさほど高くないところが多く、不景気を反映してか、お金をかけずにちょっと知的にお出かけやデートができるということで人気が出てきているようです。
というわけで、今回は日本のワイナリー見学ブームについてお話ししてみたいと思います。
★ワイナリー見学
ワイナリーの見学客の受け入れ方は様々で、売店+試飲コーナーなどの簡単なところから、歴史的な資料などの展示コーナーを用意しているところ、スタッフの案内が付きテイスティングもする「ワイナリーツアー」まで実施しているところなどがあります。「ワイナリーツアー」はだいたい予約制で、まずブドウ畑を見に行き、それから収穫や醸造、熟成、瓶詰などの工程についてそれぞれに使用される設備や建物を実際に見ながら説明を受け、最後にお待ちかねのテイスティング、というのがよくある流れです。
小中学生の頃に大手メーカーの醤油工場やビール工場見学をしたことがある私にとって、大人になってからのワイナリーツアーは実に新鮮でした。無機的で機械的な醤油工場やビール工場とちがい、ブドウ畑を見て歩きながらブドウの木や土に触れたり、醤油などとちがって年中作れず秋の収穫から醸造が始まるためにぴかぴかに洗浄されて稼動していない醸造設備を見たりすることを通じて、ワインは単なる工業製品とはまったくちがった、「農業」が深く関わる産物なのだという印象を強く受けたからです。ソムリエ試験の勉強などで「良いワインは良いブドウからつくられる」ということを頭では学んだつもりでいましたが、ワイナリーの様子を目の当たりにし、ワインづくりはブドウづくり、つまり農業の先にあるものなのだということを強く実感したのでした。
ワインに関する勉強の一環でワイナリーツアーを体験したわけですが、現場を見たことでより理解が深まったという以上に、目からうろこが落ちたような、ちょっと感動的な体験ですらありました。今でもときどきワイナリー訪問をしますが、行く度に新たな発見があります。ワインに興味のある方は是非一度ワイナリーツアーに行かれることをおすすめします。ワインの本場ではない日本のワイナリーでも、いや日本ならではの発見がきっとあるはずです。
★ワイナリー巡り先進国アメリカ、後進国(?)フランス
2004年のアメリカ映画「サイドウェイ」はご覧になりましたでしょうか。カリフォルニアのワイナリー巡りを舞台にワイン好きの人間ドラマを描いた作品でした。この映画は日本ではさほどヒットしたわけではありませんでしたが、出演者に鈴木京香や小日向文世などを迎えてリメイクされ、この週末に公開されます。オリジナル作品がアカデミー賞の最優秀脚色賞を受賞したのもさることながら、大手テレビ局も制作に参加していることから広く話題となりそうです。
ワイナリー巡りの先進国といえばやはりアメリカでしょう。ナパヴァレーなど有名産地の中規模以上のワイナリーは売店や試飲コーナーだけでなくゲストハウスやレストランを併設しているところも多く、週末や収穫期などに大規模なイベントを行ったりしているところもあります。ワイナリーを身近に感じてもらうことは大きなPR効果があるわけで、小さい家族経営的なブティックワイナリーでもない限り、どこも積極的にお客様を受け入れているようです。
日本でも、中規模以上のワイナリーでは、売店だけでなくレストランを併設したり、ワイナリーツアーや収穫祭、新酒祭りなど、お客様を積極的に受け入れる活動をしているところもあります。メルシャンやサントリー、マンズ(キッコーマン)といった大手メーカーは実は早くからこうした活動を行っていましたが、中小のワイナリーでは比較的最近になってから(ここ10~20年くらい)のようで、一般のお客様がイベントでもないときに多く訪れるようになったのは本当にごく最近のことです。
一方フランスですが、私が10年ほど前にボルドーを旅行したときのことですが、ブルゴーニュに比べれば開かれているといわれているボルドーのシャトーですら、予約のない見学客を受け入れているようなところはほとんどなく、訪問するにも必ず事前予約が必要、いや見学訪問自体受け入れてもらえない有名シャトーも多かったのです。「勝手に敷地へ入ってこないで!」と追い返されたこともありました。予約もなく訪問しようとした私も悪いのですが、意外なほど閉ざされている感じがして、一抹の寂しさを覚えたものでした。
そんな状況でしたから、カリフォルニアや日本のワイナリーの取り組みは非常に好感を持っておりましたし、私たちのような業界の人間だけでなく一般のお客様ももっとワイナリー見学をしてもいいのではとかねてから思っていました。ですので、最近のお客様増は本当に好ましく思っております。日本人のワイン嗜好が「おしゃれだから」「健康に良いから」と扇動されたブームから、本格的に生活に浸透しつつある証拠だといえるからです。
★ワイナリー見学ブームの本格化?
もしかするとここにきてワイナリー見学ブームは本格化するかもしれません。既にちょっとしたブームになっていることに加えて、話題の映画が公開され、国産ヌーヴォー解禁日の来週11月3日以降イベントが各地で行われるなど、いろいろと重なるからです。一般の消費者の方たちが身近にあるワイナリーに興味を示し、国産ワインのサポーターになるということは、日本のワイン生産者の方々が最も望んできたことなので非常に喜ばしいことですし、私もそうなってほしいと思っています。
しかししつこいようですが、ブームというのは用心しなくてはいけません。大きな波になれば引きも強くなりますし、良くない痕跡を残すこともありえます。
きちんと案内のつく「ワイナリーツアー」は基本的には予約が必要であり、展示コーナーや売店がなくワイナリーツアーも実施していないようなワイナリーを訪問しようとするならなおさら事前アポイントが必要です。アポ無しで訪問しようとした挙句に「入れてもらえなかった」などとクレームを言い出したりするのは失礼な話ですが、見学を希望するお客様があまりに増えてくるとそうした事態も起こりうるように思います。私自身のボルドー旅行の反省もあって申し上げますが、ブームといえども、客といえども見学する側のマナーをきちんと守って訪問したいものです。またワイナリーツアーは有料であることがほとんどですが(というか有料とするべきでしょう)、もし無料であったとしても、お礼の意味もこめて試飲で気に入ったボトルをお土産に買って帰るなどしてあげたいものです。
ワイナリーに限らず生産者は末端の消費者の顔を見たいと思うもので、お客様の訪問は基本的には歓迎されるものです。しかしワイナリーによっては少人数で運営しているところもあり、繁忙期など場合によっては見学させてもらえないことも当然ありえます。事前アポイントやマナーを守って、生産者とのコミュニケーションが活発なものになることを願うばかりです。
ところで、私は個人的にはこうしたワイナリー見学ブームにちょっと違和感を持っています。と言いますのも、ワイナリー訪問というのは普通に考えれば「このワイン美味しいから、今度ワイナリーに行ってみよう」という動機で行くものと思いますが、最近ワイナリー見学に行かれるようになったお客様皆さんがそう思われているのだろうか、という疑問があるからです。私自身、国産ワインを美味しいと思うようになったのはかなり最近のことなので、皆さんがそうしたワインを普通に美味しいと思われているのかちょっと不思議だからです。
しかし、もしかすると私がそんな風に思ってしまうのは偏見であり、何かの誤解なのかもしれません。次回はそんな国産ワインにまつわる「誤解」のお話をしたいと思います。
筆者自己紹介
ペンネーム:You
プロフィール:フランス料理店にて修業の後、昨年まで都内大規模エンターテインメント施設にてチーフ・ソムリエをつとめました。
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