飲食店失敗の研究 第19回「師匠の近所で弟子が独立」
- 2009年5月25日 15:43
関西有数の高級邸宅街。門構えだけで普通の建売住宅なら2~3軒分にもなりそうな、いかにも立派なお屋敷が建ち並ぶ。
A店は、そんな風格のある街に古くから根を張り、地元の名士たちの舌をうならせてきた老舗レストラン。オーナーシェフのBさんは、この店を持って既に数十年になる。
A店のコックのCさんが独立したのは、いまから数年前。BさんとCさんは、長く師弟関係にある。
Cさんの新しいお店「D」は、A店からほど近い場所に開業した。業態も、修行先のレストランに似たものとなるのはよくあることだ。今回のD店は、まったく同じ業態ということではなく、基本はA店のテイストを継承するものの、よりカジュアルに気軽な来店動機を狙っていた。
味わいは、さすが老舗レストランで永年にわたって腕を振るってきただけのことはある。素材の選定や、しっかりとした仕事を感じさせる仕込、見た目の鮮やかさなど、どれをとっても実力と年輪を感じさせるものだ。
これをカジュアルな雰囲気で、しかもリーズナブルな価格設定で出したので、次々にお客がやって来る。そういうはずだった。
しかし、名店からの独立ということだけでは、新規顧客は思うように集まらないから商売は難しい。顧客ベースを構築しようにも、いかんせん、2軒が同じエリアなので師弟同士で競合関係になってしまう。無論、BさんとCさんの師弟愛は競合関係になるようなものではなかったが、お客は当然分散されてしまう。
かくして、Cさんはメニュー構成を大胆に修正してゆく。ほとんど「おつまみ」というような単品メニューを増やし、実質的に洋風居酒屋になってゆく。フレンチの料理人としては苦渋の選択だったことは想像に難くない。
飲み物も焼酎やサワー類を拡充した。店名はもう少し本格的なフレンチを連想させる開店時のまま変更していないため、事情を知らない新規顧客は戸惑いを見せる。
高級邸宅街にも大手居酒屋チェーンが進出し、価格競争の波に飲み込まれてしまう。お客は大邸宅の旦那様やセレブな奥様ばかりではないので、安くしなければ会食や宴会の予約はなかなか取れなくなった。無論、腕が落ちたのではないから、洋風居酒屋としては十分過ぎる美味しい料理が提供されている。
最初の立地選定が、最後まで尾を引いている。Cさんの苦悩は続く。
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