ワインブームとワインの「誤解」 その5 ~ロゼワインの誤解~
- 2009年8月25日 09:25
☆~ロゼワインの誤解~
前回「重厚な味わいのワインは良いワイン?」という誤解のお話をしました。「軽いワインは通が飲むに値しない」という偏見や誤解のお話です。こうした誤解は特に赤ワインにあるように思いますが、同じような誤解がロゼワインにもあるように思います。特に日本ではロゼというだけで甘口だと思われているようで、それゆえに軽い赤ワインと同様、いやそれ以上に「初心者向け」「女性向け」と思われている風潮や誤解があるように思います。
ソムリエやワインアドバイザーなどの資格取得の勉強をされたことがある方はお分かりと思いますが、世界中で作られているロゼワインの多くは辛口で、食事と合わせられるしっかりした味わいのものも多く存在します。というより食事とあわせるべきもののほうが多いのです。つまり性別やワイン歴に関係なくワインがお好きな方なら十分お楽しみいただけるものであるはずなのです。
「ロゼワイン=甘口」という誤解も、日本でのワインブームがきっかけになっていると思われます。今回はその経緯と、ロゼワインの本当の魅力についてお話ししてみたいと思います。
★日本のワインブームとロゼワイン
この「ワインブームとワインの誤解」シリーズの第1回で、日本で最初にワインが広まっていったのは甘口の軽いワインだったことをお話ししましたが、「ロゼダンジュ(フランス、ロワール川流域)」や「マテウス ロゼ(ポルトガル北部)」といったロゼワインもそうしたワインとして紹介され、初期のワインブームの一翼を担ってかなり広まりました。
甘口の軽いワインのブームの後、本格的な辛口ワインが次第に紹介され受け入れられていきましたが、ロゼワインだけはあまり辛口のものが紹介されませんでした。他の辛口ワインは「薀蓄」を語れるだけのストーリー性のあるものや、高級で格付けのある重厚な味わいのワインから紹介されていったのですが、ロゼワインにはそうした銘柄が少ないために、なかなか紹介されにくかったのだろうと思われます。
こうしてロゼワインだけは日本にワインが紹介され始めた頃の甘口の軽いワインというイメージが定着したまま、現在に至ってしまっているのです。
★「ロゼワイン=甘口」?
ところが「ロゼワイン=甘口」という認識は、世界的には正しいものではありません。例えば日本で有名なフランスのロゼワインといえば薄甘口の「ロゼダンジュ」ですが、当のフランスでは事情がちがうのです。
フランス人にとってロゼワインといえばプロヴァンス産、プロヴァンスのロゼといえば爽やかな辛口です。夏のヴァカンスの時期、多くのフランス人は南の地中海岸地方で過ごします。その食卓にはたっぷりの地中海産野菜とプロヴァンス産ロゼワインが欠かせません。夏の暑い時期ですから重厚な赤ワインなど飲もうという気にもなれませんが少し冷やしたロゼならとても魅力的です。野菜たっぷりのプロヴァンスの地方料理にプロヴァンスの辛口ロゼはとても相性が良いのです。
プロヴァンスに限らず、ロゼワインの多くは赤ワインを造る黒ブドウから造られますが、南フランス産の赤・ロゼ用のブドウ品種はスパイスやハーブの香りが強めで、酸味だけではない爽やかさや、料理との相性の良さをもたらしています。特に地中海地方にはどこにでもあるトマトとの相性が良く、ソースや煮込み料理などに調理されたトマトとプロヴァンスの辛口ロゼは最高の相性を見せてくれます。そうした料理に合わせるロゼは必ず辛口であって、決して甘口ではないのです。
フランス人にとってロゼワインといえば、プロヴァンスの辛口ロゼが代名詞のようになっています。フランスに限らず世界的に見てもロゼワインといえば甘口ではなく、辛口が主流なのです。
★ロゼワインは「初心者向け」「女性向け」?
日本では「ロゼワイン=甘口」と思われているだけでなく、それゆえに「初心者向け」「女性向け」とも思われているようです。確かに甘口の軽いワインなら初心者でも楽しめるというのは間違いではありませんし、一般的には男性よりも女性のほうが甘い物好きですから甘口ワインは女性向けというのもうなずけますが、「ロゼワイン=甘口」ということ自体が誤解なのですから、そうした考えも誤解としか言いようがありません。
また甘口とちがって辛口のロゼワインは食事と一緒に楽しむこともできるので、むしろワイン通の方にこそ楽しまれるべきです。ロゼに限らず、甘口の軽いワインは料理との相性をなかなか見つけにくいものですが、辛口ならよほど個性的な風味のものでもない限り料理との相性を見出すことが可能です。料理との相性を考えられるワインは、味わいの軽い重いに関わらず、組み合わせる料理次第で楽しみ方が広がります。しかしワインを味わうことだけでなく料理と合わせて味わうということ(フランス語で「マリアージュ」と言います)にある程度慣れてこないと、なかなか楽しむとはいかないかと思います。つまりマリアージュはある程度ワインを飲み慣れてからの楽しみ方であって、決して「初心者向け」の楽しみ方とは言えないので、ロゼワイン
といえどもワイン通の方にも十分お楽しみいただけるものなのです。
★辛口ロゼワインと相性の良い料理
前回も触れましたが、料理(の味付け)は軽くなってきているのに赤ワインは相変わらず重たいものが求められているという不思議な現象があります。しかし私は、昨近の健康志向を反映した軽い味わいの料理、素材を活かした料理には、辛口のロゼワインこそ良く合うと思っています。よく肉料理には赤ワインと言われますが、フランス料理ですら赤ワインの強い渋みや風味を必要とするようなクセが強く濃厚な味わいの肉料理は減る傾向にありますし、和食などでは鴨のような赤身肉でもロゼのほうが美味しい場合があります。
ロゼワインは製法が赤ワインとも白ワインともちがうように、味わいや香りも赤ワイン、白ワインともちがいます。ただ味わいは白ワインに、香りは赤ワインに近いといえます。産地や生産者(による造り方の細かなちがい)によって、色合いや風味は多少ちがいますが、ポイントは赤ワインと同じ黒ブドウに由来する香りが存在することです。具体的には原料ブドウの品種によりますが、一般的には苺やカシスといった赤から赤黒い果実、コショウやナツメグなどのスパイスの香りが感じられます。渋みが少ないので味わい的には白ワインに近いのですが、これらの香りがあることによって白ワインよりもより幅広い食事との相性の可能性が出てくるのです。
よく魚料理には白ワインといわれ、実際バターやクリーム、オリーヴオイルなど油脂系のソースなどで仕上げたものなら白ワインとの相性は良いのですが、最近はフランス料理ですら野菜のピューレやトマトなどを多用した料理が多く、こうした料理にはむしろロゼワインのほうが合うことのほうが多いようです。また軽い赤ワインをあわせることの多い仔羊の煮込みやハムなどの肉料理にも実はロゼワインはよく合います。
★ロゼワインの製法に関する誤解
ロゼワインには他にもその製法について誤解があります。ロゼワインはよく「白ワインに赤ワインを混ぜてつくられる」と思われているようなのですが、こうした造り方は一般的でないばかりでなく、ごく一部を除いて国際的にも認められていない製法です。確かにシャンパーニュではこの製法でつくられていますし、かなり以前に日本でもそうした造り方をされていた時代もあったのですが、なぜかこのやり方は広く知られており、ロゼワイン一般がそうつくられているかのように思われているのです。これは明らかに誤解です。
実際にやったことがある方もいらっしゃると思いますが、白ワインに赤ワインを加えてロゼにしようとすると、赤ワインは本当にごく少量でピンク色になってしまいます。このやり方では「色だけピンク色をした白ワイン」が出来上がってしまうのです。つまり白ワインにはない様々な風味を持つロゼにはならないのです。
ではロゼワインはどのようにしてつくられるのでしょうか。初めは赤ワインと同じように黒ブドウの果皮をジュースとともに発酵させ、途中でジュースを抜き取って発酵を完了させるセニエ法という醸造法が一般的です。果皮からの赤い色素(アントシアニンといいます)が適度に抽出されたところで抽出をやめるわけです。このとき同時に渋みのもととなるタンニンも抽出されるのですが、途中でやめるために赤ワインに比べればほとんど渋くないワインとなります。また黒ブドウの皮に由来する赤黒い果実の香りやスパイスなどの風味も抽出されますが、これがロゼワインの大事な風味となるのです。
★ロゼワインを楽しむ
ロゼワインにはいろいろな誤解がありますが、本来のロゼワインにご興味をお持ちいただけましたでしょうか。ワインの究極の楽しみ方のひとつである料理との「マリアージュ」という意味でも、むしろワイン通の方にこそお楽しみいただきたいと思うのです。
最近はフランスばかりでなく日本でも、例えばお花見の季節や夏にロゼという楽しみ方が定着してきたようです。これまでついロゼワインを敬遠してきた方、これから改めて楽しんでみてはいかがでしょうか。
さて、次回は「ワインブームとワインの誤解」というテーマでまだお話していなかった白ワインのお話をしたいと思います。白ワインに関しては、ロゼワインほど誤解されていないように思いますが、あまり楽しまれていると聞く機会も多くありません。でもこれまで私が体験したマリアージュのなかで最も強く印象に残ったのは白ワインでした。そのお話を中心にもっと白ワインも楽しまれてもいいのでは?というお話をしたいと思います。
筆者自己紹介
ペンネーム:You
プロフィール:フランス料理店にて修業の後、最近まで都内大規模エンターテインメント施設にてチーフ・ソムリエをつとめました。これまで飲んできた最良のロゼワインは、シャトーデスクランのコート ド プロヴァンス「ウィスパリング エンジェル」です。ボルドー、メドック地区の特級第4級格付けシャトープリューレ リシーヌのオーナーが所有し、同じくメドックの特級第1級格付けも名高いシャトー ムートン ロトシルトで長い間醸造技師を務めていたパトリックレオン氏が造るこのワインは、プロヴァンス ロゼのあふれる果実味とボルドーの繊細さ、洗練さをあわせもった素晴らしいロゼワインです。色合いもただひと言にロゼともサーモンピンクとも言いがたい、実に美しく繊細な色合いに仕上がっており、これだけでも感銘を受けるほどです。価格的には他のプロヴァンスロゼより高いのですが、内容的には十分価格に見合ったものだと思います。
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