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お酒・飲食店・経営に関するコラム

ワインブームとワインの「誤解」:その4 ~重厚な味わいのワインは良いワイン?~

  • 2009年7月10日 16:18
  • 投稿者: アクシュニュース

ワイン関連コラム☆~重厚な味わいのワインは良いワイン?~

 前回は「フレンチパラドックス」の話題から広がった「ポリフェノールを含んでいる赤ワインは体に良い?」という誤解のお話でした。その中で、明らかに飲み頃には早すぎる高級ワインを「体に良いから」と口にした方の「大して美味しくもない」「ワインなんてそんなもの」「良薬は口に苦しというじゃないか」という言葉のお話をしました。

 

 

 これと少し似ていますが、こんなこともあります。それは「重厚な味わいのワインは良いワイン」であるとする風潮です。本当に美味しいと思っておいでならそれ以上言うことはないのですが、あまり美味しいと感じていないにもかかわらず「そういうものなんじゃないの?」と思っておいでの方が、実は少なくないようなのです。また「ワインを贈りたいのだけど、ワインをよく飲まれる方なので重たい赤ワインを選んで欲しい」といった話もよく聞きます。

 しかし本当に「重厚な味わいのワインは良いワイン」なのでしょうか。また、よくワインを飲まれる方は重たい赤ワインを好まれるものなのでしょうか。ということで、今回はこのテーマを取り上げたいと思います。

 

★重たい赤ワインの美味しさがわかって初めてワイン通?

 重厚な味わいのワインといえば、やはり赤ワインということになるでしょう。重たい赤ワインとは、一般的にはタンニンを豊富に含んでいて多少なりとも渋みがあり、果実味や旨味、酸味もある程度しっかりしたワインのことをいいます。

 

 ワインに限らずビールやリキュールなど苦味や渋みを伴うお酒をある程度たしなまれる方でないと、重たい赤ワインの味わいというのは初めはなかなかわかりづらいかと思います。初めてビールを飲んだとき、苦いばかりでとてもおいしいとは思えないのと同じです。

 

 確かにそれはそうなのですが、そのために、たくさんワインを飲んだことがなければ重たい赤ワインの美味しさはわからない、ひいては重たい赤ワインの美味しさがわかるようになって初めてワインを嗜む者として通用するようになるのだ、という偏見とも言うべき風潮が生じているように思います。しかも日本にワインが定着していく中で軽い甘口ワインの後に本格的にワインが普及していった際、「薀蓄」を語るべき高級赤ワインから紹介されていった(前々回既述)ために、この風潮に拍車がかかっているのです。「薀蓄」を語れるような高級赤ワインこそが(一部の銘柄を除いて)重厚な味わいだからです。

 

 ワインをわかったような口をきくには、赤ワインをいろいろ飲んで「薀蓄」を語れるような高級ワインの重たい味わいがわかるようにならなければならない、というわけです。こうした風潮はどう考えても偏見であり、誤解だとしか思えないのです。たとえ重たいワインを飲んだことがなくても、あるいは飲んでも美味しいと思ったことがなくても、美味しいと思えるワインに出会ったことがあるなら、ワインの美味しさを語るに十分な経験だと思うのです。

 

★高級ワイン=重たいワイン=良いワイン?

 前回も少しだけ触れましたが、高級赤ワインの魅力の真髄は、長い熟成の後に現れるえも言われぬような風味といえます。ヴィンテージ状況などにもよりますが、一般的にそうした風味が現れるには10年、20年といった長い期間が必要です。しかしそれだけ長い期間熟成させるには、ワインに十分なポテンシャルが必要になります。

 

 赤ワインにとって長期熟成を可能にするポテンシャルとは、赤い色素のアントシアニンと渋みのもとでもあるタンニンがどれだけ含まれているかで決まります。しかもアントシアニンやタンニンが多く含まれているだけでなく、長い時間を経てもなおワインとして美味しく飲めるだけの果実味や旨味、酸味などがバランスよく豊富に含まれていることも必要です。アントシアニンやタンニンは抗酸化力の源であり、これがあるおかげで赤ワインは長く熟成できることにちがいないのですが、特に果実味は時間が経つと弱まってしまうため、はじめから果実味が相当豊かなワインでなければならないのです。

 

 しかしながら、10年、20年という期間は大変に長いわけで、そこまで待たれずに消費されてしまうことも当然出てきます。上手く造られたワインであれば、果実味や旨みが豊富なため、若くして飲んでもそれなりに美味しいものではありますが、熟成しきっていない赤ワインのタンニンは多かれ少なかれ苦味や渋みを伴うため、必ずしも美味しいと思われない場合が出てくるわけです。

 

 そのために自分では美味しいと思えないようなワインでも、高級銘柄で口当たりが重ければ「良いワイン」だと思ってしまう、思わされてしまうということになるわけです。これがたとえ美味しいと思えなくても「重たい味わいなら良いワインである」という判断につながってしまうようです。美味しいかどうかをさておいて「重たければ良いワイン」であるとする短絡的な判断は、実に危うい誤解と言わざるを得ません。

 

 しかしそうしたワインでも、本当に美味しいと思われるなら逆に誤解などとは言えません。「果実味も大事だが、渋いほうが好きだ」とおっしゃるなら、それはまちがいではないのです。ワインはお酒であり、嗜好品です。美味しいワインはまちがいなく良いワインと呼ぶべきです。

 

★軽いワインは良いワインではない?

 こんな声を聞いたこともあります。「(ボジョレーのような)軽くて渋みのない赤ワインはたいしたものではない」というようなことです。日本でボジョレーヌーヴォーが何度となくブームとなっているにもかかわらず、そのたびに終息してしまうのは、こうした考え方によるものと思われます。たとえボジョレー ヌーヴォーなどをきっかけにワインを飲むようになっても、次第に「卒業」してしまう、つまりボジョレーのような軽いワインは入門向けであって「通」が飲むものではない、ということなのです。このことくらい「誤解」だと声高に言いたくなることは他にないと思います。軽いワインは軽いワインなりに美味しいものですし、私は今でもそうしたワインが好きだからです。

 

 たとえばボジョレーについていえば、若いうちは重厚で高級な赤ワインにはないチャーミングなイチゴなどの香りやフルーティーさがあります。渋みがない上に適度な酸もあるために、夏などには少しだけ冷やして飲むととても爽やかでこのうえなく美味しいのです。美味しいワインは良いワインと言うべきだと私は思うのですがいかがでしょうか。

 

 ボジョレー ヌーヴォーに関しては、このコラムの第1回で既にお話ししているので詳細は割愛させていただきますが、ヌーヴォーに関しても独特の楽しみ方というのがあってしかるべきです。値段が高いことも運賃などの理由を説明するより、「お祭り」のためのご祝儀と言ったほうが納得していただけるかもしれません。

 

     料理は軽くなる傾向なのに、軽いワインは流行らない?

 私たちにとって日常食である和食は、もともと重たくしつこい料理は少ないように思います。また最近は健康志向などもあってフランス料理ですらかなり軽く仕上げられるようになってきています。他にも料理ばかりでなく、ビールや焼酎なども軽くて繊細な味わいのものが主流となってきています。そうした傾向があるにもかかわらず、なぜかワインだけは重たいものがもてはやされ続けています。なぜなのでしょうか。

 

 ソムリエなどの勉強をされたことがある方はおわかりのことと思いますが、ワインは多くの場合食中酒として飲まれます。しかも重たい味付けの料理には重たいワインを、軽い料理には軽いワインを合わせる、というのが常識です。なのに料理は軽くなってもワインは軽くならないというのは、なんとも不思議でならないのです。

 

 熟成した高級赤ワインを至高とするのは私もお話ししました。なので逆説的な発言になってしまうのではありますが、そればかりがワインの楽しみ方ではないと思うのです。料理に合わせて、もっと軽いワインが楽しまれて良いのではないでしょうか。食事と合わせてワインの多彩な個性を楽しめれば、より豊かなワイン生活となり、ひいては生活そのものが豊かになるのではないでしょうか。

 

 実際私はこれまで多くのお客様に、一般的には軽いとされる赤ワインをよくおすすめしてきましたし、お客様にもお楽しみいただけたと思っています。フランスで言えばボジョレーやシノン、イタリアなら格付けの高くないキャンティやドルチェットダルバなどです。皆さんもそうした軽いワインをもっとお客様にお勧めしてみてはいかがでしょうか。

 

 また日常的にワインを嗜むのであれば、特に夏の暑さの厳しい日本においては軽くて渋みの少ない赤ワインばかりでなく、白ワインやロゼワインももっと楽しまれてよいと思うのです。もちろんワインはお酒であり嗜好品ですから、「重たい赤ワインが好きだ」とおっしゃるのはよいのですが、軽いワインは「通」が飲むに値しない、などというのは偏見であり誤解であると思うのですがいかがでしょうか?

 

 

 ここまで重厚な味わいのワインについて、赤ワインのことばかり取り上げてしまいました。次回は「重厚な味わいのワインは良いワイン?」というテーマを、白ワインやロゼワインにも広げてお話したいと思います。

 

筆者プロフィール

ペンネーム:You

 フランス料理店にて修業の後、昨年まで都内大規模エンターテインメント施設でチーフ・ソムリエをつとめていました。

 ここ最近感銘を受けたワインのひとつは、中央葡萄酒工業さんの「ケルナー レイトハーベスト2008」です。北海道の余市というところはワイン向けのブドウ産地として気候などの条件が特に優れた地域です。しかも昨年の天候は日本とは思えないほどワイン用ブドウにとって良かったそうで、奇跡的というほどの出来栄えになったようです。私にとってこれまで日本産ワインでは経験したことのない「好感」を抱いたワインでした。軽やかでやや甘口、アルコール度数は若干低めですが、果実味、酸味、フルーツの風味などがとても上品でバランスが良く、決して重厚な味わいではありませんがとても好きになりました。

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